今から20年ほど前、安曇野にある美術館によく通いました。アルメリア生まれのフランス人画家、ジャン・ジャンセンの美術館です。私がジャン・ジャ ンセンの描く絵に惹かれたのは、光だけではなく影をも描いているところです。別の言い方をするならば、前面に見えるものだけではなく、背景、余白、余韻に 暗示的に表現されているものを感じたからです。
特に彼がベニスに滞在中に描いた「浅瀬の網」を観賞した時は、余白の豊かさに圧倒され、その当時美術館で絵はがきを買い求めました。今でも東京のオフィスに飾っているほど気に入っています。
昨日、東京から越後奥寂庵に戻りました。もうすぐ奥寂庵に到着する、という時に夜が明けましたが、運転していて心を奪われた光景が視野に入り、車を停めて 撮影しました。朝靄のなかに日が昇ろうとしていて、私のなかでは「浅瀬の網」を観ているかのような、気持ちになりました。
自然は美しくあろうと努力をしていません。ただ、あるがままで周囲と調和し、美しいのです。私たち人間も内奥にも自然と同じ美しい質があることを、自然はいつも私に教えてくれます。