ロシア政府に対するWCP(世界心理療法協議会)からの声明
私が属する「国連NGO The World Council for Psychotherapy(WCP)」が声明を出しました。私と同じ正会員が、ロシアに47名、ウクライナに6名、いらっしゃいます。WCPの正会員間においても、どうか分かち合いの対話が生まれますように。
私たちが人々とかかわる際と同じように、心理療法家の在り方で、今起きている現象面のみを観て安易に判断することなく、その現象が生じた背景の力動にも光を当て、包括的な理解を丁寧に深めることを試み、それぞれの立ち位置に立ってみることを通して双方が理解しあって欲しいと思います。そうすることによって、お互いの気持ちに触れ、共感から尊重しあう気持ちが生じ、違いを認め合うと同時に、同じ生き物として双方の「いのち」が共振することが生じるように思うのです。
ただし、どんな背景があろうとも、いのちの尊厳を踏みにじる行動化を起こしてはなりません。かけがえのない、多くの命が失われていくことほど、胸が痛むことはありませんし、そうしてしまうと双方ともが防衛的、戦闘的になり、対話は困難になりますから、侵攻を即時中止して対話に移行することを切に願います。歴史、経済的状況など、二国間を超えて大変複雑な背景がありますから、対話によってすぐに解決するようなものでは、残念ながらないでしょう。しかしながら、WCPの声明にあるように、心理療法の過程同様、「人間の精神の一番崇高な性質」を源に置いて、戦争を行う勇気ではなく、エゴを手放す勇気、鎧を脱いでハートを開く勇気を持って、辛抱強く肚を据え、秩序と調和に向けたメタ・コミュニケーションを交わして頂きたいのです。そうすれば、歴史は繰り返さず、新たな調和の世界が訪れると思うのです。
気になるのは、プーチン氏の精神状態です。ロシアの歴史から対外的に防衛的になるのは理解できますが、最近、最側近との会合でさえも数メートル距離を開けることから、心理的に被害妄想的傾向の可能性が見受けられます。他者を信頼出来ず、現実から遊離し、全てが敵に見える疑心暗鬼な幻想の世界に居るとしたなら、現実的な判断は下せないでしょう。孤立してしまうとハートが凍りつき、他者と心を通わせることが出来なくなり、他者のなかにも自分と同じようないのち、人生、家族があるというリアリティが感じられなくなってしまう傾向があります。ですから、専制君主に限りなく近い人物がそうなってしまうと、暴走してしまうリスクをはらんでいます。そこは注視していく必要があります。
私たち一人一人が出来ることは、現実では困っている隣人に可能な範囲で手を差し伸べることです。内面では、無意識にある影に光を当てることにいそしむとともに、刺激と欲望を餌とするマインドに意識を向けることです。そうすれば、内面にある影を外界に投影して攻撃を助長することもマインドを興奮させることも減り、表面的な二元論的リアリティから、深層にある静寂な一元論的リアリティに徐々に降りていくことでしょう。そこには内なる幸せがあります。
【ロシア政府に対するWCP(世界心理療法協議会)からの声明】
WCPは、ロシア政府に対し、ウクライナ侵攻の即時中止、戦争終結、国際法の遵守、全ての軍隊と兵器を自国に持ち帰ることを呼びかけます。
心理療法家として私たちの見解は、軍隊による侵攻は、問題を解決することも目論んだ目的を達成することも決してなく、その代償として計り知れない被害を生み、何世代にも影響を与えうる様々な領域での破壊をもたらす、ということです。これには、一個人の不安とともに、身体面、心理面、感情面における、個人、家族双方に生じる深刻なトラウマをも含みます。心理療法家は、紛争解決のための和平交渉、対話、討論を重んじ、戦争と暴力を非難します。ですから私たちはロシア政府に対し、戦争を中止し、思慮深く成熟した形で、かつ敬意を表しながら外交を通して平和を樹立するよう、呼び掛けます。
私たちは、人間の精神の一番崇高な性質が優ることを望み、自由が復活するための確固たる解決策が見出せることを、心から願います。